第3回 元首たちの古典教養その2―嘤其鸣矣,求其有声|現代に生きる中国古典

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 最近、中国人留学生が中国語の授業を履修するようになってきた。授業では、日本人学生の会話の練習相手になってもらったり、最新の中国事情を話してもらったりと、協力してもらっている。彼らは、授業や日本での暮らしで感じた日本と中国の違いについても話してくれる。その発見の中に、日本語「友だち」と中国語「朋友」との語感の違いがある。授業では、「朋友」は日本語「友だち・友人」に当たると教えている。だが、留学生たちに言わせると、「友だち」は「朋友」ほどの重みがないとのことだ。彼らによると、「朋友」は、生涯をともに支え合う、日本語の親友に近い感覚があるらしい。ちょっとした知り合いでも「友だち」と言える日本語の使い方と、語感の違いを感じても無理はなかろう。

 さて、中国古典にも友情を題材にした文学作品は数多あるが、今回は毛沢東が愛した言葉「嘤其鸣矣,求其有声」を紹介しよう。

 中華人民共和国建国の父である毛沢東は多趣味であった。水泳の鍛錬を日々欠かさず、中国の伝統詩を作り、芝居を愛し、時には春画を集め、そして何より読書家であった。毛沢東は洋の東西を問わず本を読み漁り、中国古典にも通じていた。このため、毛沢東は、演説や著作の中でしばしば古典を引用する。

 1939年、毛沢東は、スターリンの60才の誕生日に祝賀の書簡を送り次のように述べている。「我々中国人民は、歴史上最も災難が深刻な時、最も人びとの援助が必要な、最も切迫した時にある。『詩経』には「嘤其鸣矣,求其有声」とある。我々はまさにこのような時にある。」(『斯大林是中国人民的朋友』より)

 この句の典拠は『詩経』小雅の「伐木」である。『詩経』は、儒教の経典五経の一つに数えられる中国最古の歌集であり、周代の民謡、宮廷楽歌が収められている。「伐木」は長い歌なので、毛沢東が引用した箇所の前後のみを挙げることにする。

伐木丁丁。鳥鳴嚶嚶。出自幽谷。遷于喬木。嚶其鳴矣、求其友聲。相彼鳥矣、猶求友聲。矧伊人矣、不求友生。神之聽之、終和且平。(木を切る音が、トーントン。鳥鳴き交わして、ピーチクピイ。深い谷を飛び出して、高い木へと遷ります。ピーッと鳴いたその声は、友を求めて鳴いた声。それ、鳥さえも、友を求めて鳴いている。ましてや人であるならば、友を求めぬわけはなし。慎みこれに従えば(「神」の字を「神(かみ)」とする説もある)、長く和やか、平穏よ。)

「嘤其鸣矣,求其有声」は友を求めてなく鳥の声を表す。中国共産党は結成以来、ソ連の指導を仰いでいた。スターリンの書簡は、日中戦争が激化する中、ソ連にさらなる協力を求めたものであろう。

 毛沢東はこの言葉が気に入っていたのか、学生時代からしばしば引用している。一例を挙げれば、やはり日中戦争のさなか、国民党幹部に第二次国共合作を結ぶよう促す書簡でも、この言葉が引かれている。「嘤其鸣矣,求其有声」は、毛沢東が協力者を求める際の必殺の言葉なのであろう。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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