第4回 上海の電動バイクの交通ルール改定と、それにまつわる感動話――日本人家族のとある日常in上海

 今日のタイトルは『上海の電動バイクの交通ルール改定と、それにまつわる感動話』

 4月15日実施、上海の電動バイク交通ルール改定・強化
 4月15日づけで、上海での電動バイクのライセンス取得や交通ルールが大幅に改定されます。
 その中の一部が以下の通りです。

 今現在は、バッテリーが72vのものやパワーが800Wのもの、時速50キロ以上出る電動バイクが普通に走っています。しかし4月15日以降は上記の規定内のバイクでないと、上海市のライセンスプレートを発行してもらえなくなります。ライセンスプレートの発行は無料で、市内の指定の場所にバイクと身分証明証、バイクの仕様書、購入時の領収証(発票)などなどの必要書類を持っていくと発行してもらえます。
 
詳しくは以下のページをご参考に。
http://sh.bendibao.com/zffw/201896/197414.shtm

上海市内の電動バイクのライセンスプレートを発行してもらう場所はこちら。
http://sh.bendibao.com/news/2014227/98890.shtm

 4月15日以降、今と比べてどのくらい路上などでの交通ルールの取り締まりが厳しくなるかは全く想像もつかず、しばらくはみんな様子を見ながらといった感じになると思います。

今回改定された全文が下のリンクで見ることができます。(中国語)
http://www.miit.gov.cn/n1146290/n4388791/c6177121/part/6177125.pdf

 思い返せば去年の秋頃から、街のいたる交差点でお巡りさんを見るようになりました。
 去年の春に自分たちが上海に来たばかりの頃は、当たり前のように電動バイクの二人乗り、三人乗りをしている人たちを見かけました。電動バイクとはいえ、日本の原付スクーターのようなものから電動自転車のようなものまで、全て電気を原動力としているものは『電動車・電動自行車』と呼ばれています。スピードも時速50キロくらい出るものから20キロ程のものまでいろいろです。ちなみに、中国は電動バイクに乗る時にヘルメットの装着が強制ではありません。

 以前は電動バイクでお父さんが運転、お母さん後ろ、子供がお父さんの前に乗る、といったノーヘル三人乗りで街を駆け巡る親子をよくよく見かけました。そして信号で止まるなり、近くにいたお巡りさんが子供に話しかける、なんていうほのぼのとした光景を何度か見たことがあります。

 去年、自分が電動バイクを購入する際に、電動バイクの規制が年々厳しくなってきているという話を現地の方に聞きました。上海も交通ルールを国際基準にしていこう、というのが今回の改定の理由の一つのようです。

『初心を戻れ』とのお告げ
 前回の記事で、「こちらの生活に慣れてきた今こそ、初心に戻って・・・」なんて偉そうなことを書いたにも関わらず、昨日、その恐ろしい『慣れ』から、上海に来て初めての経験をすることになってしまいました。

 学校からの帰宅中、交通違反でお巡りさんに止められました。もれなく罰金30元。
 本当に申し訳ない限りです。法の遵守は絶対ですよね。尚且つ、自分は外国人として中国にお世話になっているわけです。
 外国人であろうと自国民であろうと国の法律や交通ルールを守ることはもちろんですが、外国人は特に気をつけなくてはならないと常々思っていました。お巡りさんにしても消防士さんにしても、国民の安全のために国の税金でまかなわれているわけで、外国から来た自分のような立場の人間がお仕事を増やしてしまうのは良くありません。外国人としてお邪魔している間は、その国にとって良いことはしたとしても、できる限り現地の方々には迷惑を掛けずに生活していくことが理想だと常々思っています。ことの大きさによっては自分たち個人だけでは解決できないようなことにもなり兼ねません。

 そんなことは重々わかっていたはずなのに…。

 今回、車道ではなく歩道を走らないといけない場所を電動バイクで走ってしまい、切符を切られました。通常は、車道の一番端っこのレーンが電動バイクと自転車用の道路になっています。しかしながら、時々自転車用のレーンがない道路があります。そういった場所は、電動バイクも歩道を走ることになります。スクーターが歩く人たちの横を駆け抜けることになるわけですが、こちらでは電動バイクは自転車と同じような扱いなので、そう考えればそんな状況もアリなのかもしれません。車道を走った方が安全、という安易な考えでルールを破ってはダメですね。 ルールはルールです。

 自分も本当に勝手だなぁ、とつくづく思いました。上海の街を日頃拝見しながら「みんな運転荒いなぁ〜」とか「そんなに荷物積んじゃう??」とか「交通ルールもあったもんじゃないなぁ」と思ったりしていましたが、いつの間にか自分も「まぁいっか」になってしまっていました。そしてルールが厳しくなると聞いて「え〜!いいじゃーん。そこは上海らしくユルくいこうよ〜」と思ってしまっている自分がいます。

 上海がここ数十年で急成長し、恐らくご年配の方々は刻々と変わっていく上海の街、街のルールの変化に対して、戸惑いながらも一生懸命順応してこられたのではないかと思います。

 今回の電動バイクの規制改定も、そんな上海・中国の国際化の一側面です。ルールが増えることで住みやすくなるのであれば、それはウェルカムするべき。どのような状況変化にも順応期間は必要で、順応していくと慣れが始まります。慣れが出てくると生活に新鮮味が薄れてきたり、当たり前のことに感謝することを忘れがちになり、また気の緩みにもつながります。
 順応と慣れの関係、なかなかなジレンマですが、今回の交通違反で切符を切られたことは本当に、『初心に戻るという意味を芯から考え直せ!』と誰かに言われているような気がしました。

 4月15日以降の規制改定を前に、今回の一件は本当に良い『喝』になりました。

またしても誤解

 今回自分が電動バイクの交通違反で30元の罰金を払った件、なぜか、こんな言い方をしたら本当は良くないのですが、ものすごく自分にとって二つも三つも収穫のあった出来事として心に残っています。

 まずは、自分に切符を切った2名の警察官がとても親切なお巡りさんだったこと。日頃、街の交差点に立っている警察官はなんとなく威圧的で、何か言われても中国語が分からないし、とにかくいつも自分は通り過ぎる時はできるだけ目を合わせないようにしています笑 

 この警察官のイメージというのが面白くて、カナダの警察官もとにかくマッチョで大きくて、歩き方や話す態度もすごく堂々としているというか、威圧的だったのを覚えています。でもなにをもって自分が威圧的だとかそうでないとかを判断しているかと言えば、やはり日本のお巡りさんとの比較ではないかと思います。日本の警察官があまりにも威圧感がないのかもしれません笑 それはもしかしたら、小さい頃から交番に落し物を届けに行ったりしていて、日本国民として日本のお巡りさんはなんとなく親近感があるのかもしれません。警察官というお仕事を考えれば、威圧的であることはなにも悪いことではないはずですね。

 もう一点付け加えると、上海の街中で、警察官に堂々と逆ギレしている現地の方をよくよく見かけます。これも、日本やカナダではちょっとあり得ない光景ですよね笑 正面きって自分の思ったことはストレートに伝える、これが中国の文化だと聞いたことがあります。相手が例え警察官であったとしても、自分が正しいと思ったことはしっかり伝える、ある意味、中国の方達にとって警察官は身近な存在なのかもしれませんね。

 もとい、今回のお巡りさんは全く威圧的ではありませんでした。2人いたうちの若い方のお巡りさんは、私が中国語が喋れないことがわかると、ペンを出してご自身の手のひらに『30元』と書いて見せてくれました笑

 自分もすぐに筆談の準備をしようとバッグから紙とペンを出そうとしたのですが、大丈夫大丈夫、みたいな感じで、お巡りさんが自分の手のひらに書いてくれました。この時、お巡りさんの手には他に何も書かれていなかったので、きっとこの日このお巡りさんが捕まえた人の中で中国語が喋れなかったのは自分だけなんだろうなぁと思い、これまた恥ずかしく、情けなく思いました。違反したことと言葉が分からないこと両方です。トホホホ…

 しかしこの日この警察官に出会った事で、私がそれまで持っていた中国の警察官に対するイメージが変わりました。この日止められなかったら、このいいお巡りさんにも出会えてなかった、と考えると、これはこれでよかったのかなと思いました。

 しかしながら、本当の大きな収穫はこれとは別にあります。
 本来通るべき歩道ではなく車道を自分が走っていたときに、正面から電動バイクに乗った男性が結構なスピードで走ってきたのです。この時に自分に向かってものすごい剣幕で怒鳴ったんです。もちろん中国語が分からない自分は、彼がなんと言っていたのか全くわかりません。でも本当にすごい勢いで怒鳴ってきたんです。大声で、それも本当に怖い顔つきで。そもそも、どちらかと言えば向こうの方が逆走だし、自分は車道を走ってはいたけれど、向こうだって車道だし、なんでそんなに怒鳴られなきゃいけないの?と、頭がハテナで、腹立たしささえ感じつつ。

 そんな矢先、警察が「ピーーーッ!」と自分を止めたのです。
 「これかぁ!!!今のおじさん、自分に警察のこと教えてくれていたんだ…」と、この時初めて気づきました。

 言葉がわからないと、相手の顔と声のトーンで聞いた内容を推測しようとします。中国語は日本語と比べてトーンの抑揚が多かったり、『がぎぐげご』のような濁音が多かったり、そして何よりも話しをするときの表情が豊かです。その他にも色々な要因で、日本人にとって中国語はなんだか怒っているかのように聞こえてしまうことがあるのかもしれません。アラビア語を話す知人にも同じような感覚を抱いたことがあります。これって本当に、その言語への無知からくる単なる誤解ですよね。

 このおじさんは自分を助けてくれようとしたのに、自分はそんな優しさを「なに怒ってんの、このおじさん」と思ってしまったのです。なんて最低なことでしょうか。
 自分がこのおじさんにもう一度会うことができたら、思いっきり抱きしめてお礼を言いたい気分です。
 考えれば考えるほど、涙が出そうになるくらい感動します。
 『警察いるぞ!』と真剣に怒鳴って自分に伝えてくれるなんて、なんて熱い方なんでしょうか。そう!中国の方達は本当に熱いんです!

 きっとこのおじさんと出会えたから、警察に止められたことも、罰金を払うことも自分の中でプラスな出来事として記憶に残り、さらには警察官が優しく見えたのかもしれません。

 言葉って本当に大事だなぁとつくづく思いました。
 言葉が通じなくても通じ合える、とよく音楽やスポーツの世界で言われたりしますが、やっぱり言葉は社会活動の中で重要な役割を担っていると思います。さらには、言葉が喋れたとしても、その言語が話されている地域の文化を理解していないと、言葉の内容は正しく伝わりません。

 今回のおじさんが自分に向かって『警察いるぞー!戻れー!』と伝えてくれたこと、言葉が理解できなかったために、自分はこのおじさんがただ意味もなく怒鳴りつけた、と勘違いしました。

 そして、ズバッと伝えることが中国の文化だとすれば、そして熱い国民性ということを自分が理解していれば、厳しい表情や強い口調で相手に話すような行為も、まったく不思議に思うことではなかったと思います。

 こんな風に世界の色々な場所で、言葉が分からないせいで、その地の文化を理解していないせいで、誤解がたくさん起こっているのだろうと考えると、本当は世界はもっともっと仲良く生きていけるのだろうにと思えて仕方ありません。

 またしても今回、自分の無知や思い込み、勘違いによって物事を正しく理解していなかったことに気づかされ、反省した次第です。

 中国の文化、そして中国の人々のことをちゃんと理解できるようになるためにも、中国語の勉強を頑張りたいと思います!そしてしっかり中国のことをわかった上で、中国と日本の橋渡しができるようになりたいです。

 これだけ書いて今更ですが、私の現時点の中国語の語学力は『図書館はどこですか?』が聞けるレベルです。学校で秋学期に週2コマのビギナーレベルの授業を受けたのみです。このおじさんが自分に向かって話した内容は、まったく理解できませんでした。なので『警察いるぞー!戻れー!』と言っていた、ような気がしただけで、本当は違うかもしれません。でも、自分は、おじさんがきっとそう言ったと確信しています。なぜなら中国はそんな国だからです。優しい、熱い人たちの多い国なんです、本当に。

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東山志帆上海交通大学外国語学院博士課程

投稿者プロフィール

 現在、上海交通大学外国語学院博士課程に在籍。研究分野は多文化的アイデンティティー、異文化への順応、教育機関における多文化的アイデンティティーを持つ児童生徒学生たちの脆弱性、異文化理解教育、教員教育、日中間の更なる相互理解など。2018年4月に夫の転勤に伴い、17歳、15歳、13歳、7歳の子供たちと共に上海に移住。中国に来る以前にカナダでの育児経験もあり、著者自身学生時代をカナダで過ごす。日本在住中は塾や公立中学校の英語科非常勤講師としてこれまで約15年間にわたり教育に携わってきた。日本社会、特に教育機関における帰国子女や今後日本でさらに増えるであろう海外からの留学生や移民の子供たちに対する更なる理解やサポートの充実化、日中の相互理解に向けた取り組みや双方の留学生交流の促進などが現在の主な研究テーマ。

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