漫画的な言語――「孤立語」

 世界の言語を「孤立語」「屈折語」「膠着語」という3種類に分けることがあります。「孤立語」の代表は中国語で、「屈折語」の典型はラテン語、「膠着語」は日本語や朝鮮語などです。
 「孤立語」とは、一つ一つの語が独立していて、ある「概念」を表すもので、それぞれの語の間の「関係」を示す語がないものです。
次の例を見てください。

 私は彼をなぐる。
 我打他。
  I strike him.

 日本語では主格の「は」と目的格の「を」が使われていて、これによって「私」と「彼」と「なぐる」の関係を表しています。英語では、“he”の目的格である“him”が使われていて、関係が明らかになっています。ところが中国語ではそのような「関係を示す語」は一切使われていません。これが「孤立語」の特徴です。関係を決定付けるのは「語順」です。つまり「孤立語」では「語順が重要」ということになるのです。日本語なら「彼を私はなぐる」のように「私」と「彼」の語順を変えても意味は変わりませんが、中国語では“他打我”としたら、主語と目的語が逆転して「彼が私をなぐる」になってしまいます。
 ただ、例えば“鸡吃了”のような文は厄介です。これは2つの解釈が可能だからです。一つは「鶏が(何かを)食べた」、もう一つは「鶏が(何かに)食べられた」です。つまり、中国語では主語と目的語の関係は「密」ではないのです。このことについて、ある人は「中国語は漫画的な言語」だと言っています。 最初の場面に「鶏」が、次に「食べる」動作の場面が登場します。食べる場面に「猫」がいれば「猫が鶏を食べている」ことですし、「鶏の餌」があれば、「鶏が餌を食べている」ということになります。「漫画的」とは、まさに「言い得て妙」ではありませんか。

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内田慶市

内田慶市関西大学外国語学部教授

投稿者プロフィール

福井生まれ。現在、関西大学外国語学部で教鞭をとる。専攻は「中国語学」。この10数年は特に、「近代における『西学東漸』と言語文化接触」を主な研究テーマとし、さらには、新たな学問体系である「文化交渉学」の確立を目指して研鑽中
パソコンは約25年前に、NEC9801VXIIを使い始め、その後、DOS/Vから「Mac命」に。Mao's Home Page

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