第26回 元首たちの古典教養その14――十年磨一剑|現代に生きる中国古典

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 近年、日本では学術論文の不正が問題となっています。中国でもこのような問題は起きていて、その最も有名なものに「漢芯事件」があります。これは、上海のある大学教授が革新的な性能を持つ半導体の製造法を開発したと発表し、それを受けて中国政府も国を挙げてこの研究を応援し巨額の研究費を投入したが、後になりこの研究成果が虚偽のものであると発覚した事件です。
 これに対して時の総理大臣であった温家宝は、次のようなコメントを残しています。

  我们要坚持科学精神, 树立正确的荣辱观。古人还常讲,‘十年磨了一个剑’,还不敢试锋芒,在十年后,泰山不可挡。科学来不得半点虚假,必须埋头苦干,做踏实的工作。
 私たちは科学の精神をどこまでも持ち続け、自己の行いの社会への影響について正しい見方を打ち立てなければなりません。昔のひとでさえよくこのように述べていました「十年磨了一个剑」と。まだ切れ味を試せないような刃でも、十年後には、泰山であっても遮られないようになります。科学はほんのわずかな偽りであっても許されません。一意専心に取り組み、まじめな仕事をしなければなりません。

この演説の中での「十年磨了一个剑」という言葉は賈島の詩「剣客」を踏まえたものです。賈島は中唐の詩人で、日本では「推敲」の故事でおなじみです。以下、「剣客」の詩を紹介します。

 十年磨一剑 十年掛けて磨き上げたこのひとふりの剣
霜刃未曾试 冷たく輝くその刃は、これまで切れ味を試す機会がなかった
今日把示君 今日、この宝剣を持ってきて君に見せよう
谁有不平事 誰か理不尽なことをしている者がいるのなら

 雄壮で侠気溢れる剣客の姿が浮かんでくる詩です。第一句目の「十年磨一剑」は、いまでは「長い時間をかけ苦労して磨き上げる」、「一意専心にものごとに取り組む」という意味で使われています。この言葉は、温家宝が使ったように「十年磨了一个剑」の他に、原典通り「十年磨一剑」、成語化して「十年磨剑」などの言い方があります。
「推敲」の故事では、賈島は詩のたった一字について「推」と「敲」の文字のどちらがふさわしいかを夢中になって考え続けました。そして、賈島は科挙を三十年間受け続けた人でもありました。「十年磨一剑」はまさに賈島の人柄を表した言葉ではないでしょうか。
 温家宝が使った「十年磨一剑」は、もちろん、学問にとりくむ姿勢を述べたもので、ひと振りの剣を十年にわたって研ぎ続けるように、慌てて成果を求めるのではなく、倦まず弛まず着実に学問を積み上げていけば、大きな成果を得られるだろうという意味です。この言葉は、科学者だけではなく、あらゆる仕事や学問、スポーツなどあらゆる方面につうじることではないでしょうか。
 

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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