第20回 元首たちの古典教養その11――花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开――|現代に生きる中国古典

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 ここ数年、中国人に対するビザ発給要件が緩和されるにつれ、中国人旅行者の数が急激に増えています。筆者は、自宅が空港の近くにあるので、毎日電車に乗るたびに、空港から各地へ向かう中国人旅行者の姿を目にし、街を歩いていても、至るところで中国語を耳にするようになりました。来日する中国人が増えれば、中国語を学ぶ人のなかには、中国人のお客さんを迎えることがあるかもしれません。そんな時にこんな一言はいかがでしょうか。

 温家宝前首相は、2006年9月、ヨーロッパ訪問を前にして、各国メディアの合同インタビューを受け、その冒頭で次のように述べました。

  ‘花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开’。欢迎你们,很高兴接受你们的采访 。
  (「花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开」。みなさんようこそ。みなさんのインタビューを受けられることを嬉しく思います。)

 この「花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开」は杜甫の「至客」詩に由来する言葉です。
 

舍南舍北皆春水, 草堂の南も北も春の川
但见群鸥日日来。 日々来たる水鳥の群を見るばかり
花径不曾缘客扫, 客のため、花散りし小径を掃いたことなし
蓬门今始为君开。 今始めて、門を開くのは君がため
盘飧市远无兼味, 市場は遠く、豪華な食事は出せないし
樽酒家贫只旧醅。 家は貧しく、酒は古酒があるだけだ
肯与邻翁相对饮, お隣の、じいさんも誘って飲むとしよう
隔篱呼取尽余杯。 籬(まがき)越しに、呼んで続きの酒を飲む

 この詩は、杜甫が成都の草堂に住んでいたときの作とされています。「花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开。」は、それまでは、来客をあまり喜ばなかったので、家の小径に花が散り落ちていても、お客があるために掃除をしたことはなかったが、待ち望んでいた君がやって来たので、めずらしく門を開いた、という意味です。杜甫の、心から歓迎している様子が見て取れます。

 江沢民元国家主席がフランスを訪問すると、当時のジャック・シラク大統領は、ふるさとの私邸に江沢民夫妻を招いて宴を開きました。席上、シラクは「花径不曾缘客扫,蓬门今始为君开」を引いて江沢民夫妻を歓迎し、江沢民は自ら筆を振るい、一時間もかけて辛棄疾の詞を書いてこれにこたえたそうです。

 海外で自国語を使って歓迎されると、それがカタコトの言葉でも思わず、緊張がほぐれ、嬉しくなってしまいます。江沢民の感動も想像に難くありません。日本に来た中国人にもこの言葉を使って歓迎してみてはいかがでしょうか。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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